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“ハリルの呪縛”に縛られた選手たち。歴史的惨敗の原因、後味の悪さだけが残った日韓戦

日本代表が歴史的惨敗を喫した。引き分け以上で2大会ぶり2度目の優勝が決まった、16日の韓国代表とのEAFF E-1サッカー選手権2017決勝大会最終戦で、開始早々にPKで先制しながら守備陣が崩壊。ホームにおける韓国戦では実に63年ぶりとなる4失点を喫し、スタンドから痛烈なブーイングを浴びた。来年のワールドカップ・ロシア大会へ向けた、国内組の最後のオーディションと位置づけられた大会の最後になって、攻守に著しく精彩を欠いた原因を追った。

1979年以来の韓国戦4失点。“熱さ”も伝わらない惨敗

味の素スタジアムのピッチに立つ、青いユニフォームの選手たちから。そして、日本のベンチで采配を振るうヴァイッド・ハリルホジッチ監督から。試合終了を告げるホイッスルが夜空に虚しく鳴り響くまで、なぜか“熱さ”が伝わってくることはなかった。

 韓国代表と対峙した16日のEAFF E-1サッカー選手権2017決勝大会最終戦。引き分けでも2大会ぶり2度目の優勝を手にできた日本代表は、開始早々の3分にFW小林悠川崎フロンターレ)がPKを決めて先制しながら、直後から韓国に主導権を握られ続ける。

 前半だけで3連続失点。後半にも1ゴールを加えられるなど守備網が崩壊し、攻撃陣も小林のPK以降は沈黙。放ったシュートはわずか5本と、ホームで戦うアドバンテージを生かすことなく、16本を見舞った韓国の3分の1以下に終わった。

 韓国相手に4失点以上を喫した敗戦は、1979年6月にソウルで開催された日韓定期戦以来となる。これがホームとなると、明治神宮競技場で初めて顔を合わせ、1‐5で敗れた1954年3月のワールドカップ・スイス大会予選まで、実に63年もさかのぼらなければいけない。

 直近では2勝3分けと、2010年5月の喫した黒星を最後に5戦連続で不敗を続けていた隣国のライバルに喫した歴史的な惨敗。70分から投入され、小林と並ぶチーム最多の2本のシュートを放ったFW川又堅碁ジュビロ磐田)が残した言葉が、端的に理由を物語っていた。

「やっぱりピッチ内の温度というものが、もっと高くないといけない。こぼれ球などもメンタルが強いほうにいくと、僕たちサッカー選手は小学生のころから教えられてきた。気持ちというか、そういうベースのところで完敗したと思います」

「前へ、前へ」を忠実に守ろうとした選手たち
 FW伊東純也(柏レイソル)の突破がキャプテンのDFチャン・ヒョンスFC東京)のファウルを誘い、PKを獲得したのはある意味で嬉しい誤算だった。小林のPKがゴール左隅に決まった瞬間、キャプテンを務めるDF昌子源鹿島アントラーズ)はベンチに確認している。

「このゴールはなかったものだと思って、前から行っていいのでしょうか」

 指揮官は迷うことなく首を縦に振った。しかし、望外の先制点が意識に微妙な影を落としたのか。日本は全体的に重心が後ろに下がってしまう。図らずも孤立気味になった小が必死に戦う姿を、ベンチから川又はこう見つめていた。

「前半は悠君しか相手を追っていない場面があった。相手の3人を悠君だけで追うのは無理ですから。ああいうところで、もっともっと前からいくサッカーをしないと」

 対する韓国は7月から指揮を執るシン・テヨン新監督のもと、日本を徹底的に研究し、入念な対策を講じてきた。ようやくボールを奪っても、攻め手がなかったと昌子は振り返る。

「何せブロックを作るのが早かった。僕と(三浦)弦太が顔を上げたときには、完全に11人がそろっていて中を締められた。ラインも低く僕らが背後に蹴れないようにして、無理をして真ん中に速いボールを入れれば、両センターバックボランチがすかさず前に出てきて潰しにきた。

 ならばサイドに出してもサイドで数的優位を作られ、僕らがバックパスをすれば全員が再び所定のポジションに戻る動きをひたすら繰り返していた。韓国には本当に隙がなかったし、そういう状況で僕らがどのように戦うのかが、今日の試合に関しては最後まで曖昧だった」

 つけ入るスペースがないのに、キックオフ前にハリルホジッチ監督から命じられた「前へ、前へ」を忠実に守ろうとしてボールを失う。警戒していた196センチの巨漢ストライカー、キム・シヌク(全北現代)にロングボールを集められるたびに、日本のラインがさらに後ろへ下がっていく。

 間延びさせられたうえに主導権を握られ、13分、23分、35分と立て続けにゴールを割られても、ハリルホジッチ監督に動く気配はなかった。2点のビハインドで迎えたハーフタイムのロッカールームでも、喝を入れるだけで具体的な指示も出さなければ、戦況を変える選手交代もなかった。

耳を疑うような指揮官の言葉

後半が始まっても、テクニカルエリアに立っていつものように情熱的に立ち居振る舞うことなく、ベンチに座ったまま静かに戦況を見つめている。ようやく動いたのは66分。MF井手口陽介ガンバ大阪)に代わって投入されたのは、ボランチを主戦場とする三竿健斗鹿島アントラーズ)だった。

 ベンチには川又、金崎夢生アントラーズ)と両ストライカーがスタンバイしていた。これが国際Aマッチデビューとなった三竿には申し訳ないが、大会前から「何よりもまず優勝すること」と厳命していた指揮官のさい配は、ゴールを奪いにいくそれには映らなかった。

 そして、2枚目の交代カードが切られ、川又が投入される直前に決定的ともいえる4点目を失った。ベンチの温度はもちろんピッチにも伝わる。「監督批判とは思わないでくださいね」と断りを入れたうえで、昌子は後手を踏み続けた90分間をキャプテンの視点から振り返った。

「監督の姿勢というものは、少なからず試合中の僕らからも見える。交代で出てくる選手に与えられたものを含めて、どのような指示が来るのかを僕らは聞かなきゃいけないけど、正直、今日はそういった指示がチーム内にあまり回っていなかったと思う」

 最後までらしさを欠いたハリルホジッチ監督は試合終了直後、生中継したテレビのフラッシュインタビューで耳を疑うような言葉を残している。

「韓国が日本よりも強いことは、試合前からわかっていた。韓国のほうが格上だったし、勝利に値すると思っている」

 自らファイティングポーズを放棄したかのような姿勢は、試合後の監督会見でも続けて見られた。

「韓国のパワーとテクニック、そしてゲームをコントロールする姿は驚くべきものがあった。非常に高いレベルで韓国はプレーしていた。今大会に呼べなかった選手が10人から11人ほどいたが、フルメンバーのA代表でも、この韓国に勝てたかどうかわからない」

 格上の相手を微に入り細で分析し、ストロングポイントを封じ込めるための戦略と選手起用を考案。ボール支配率で劣っても、たとえれば「肉を切らせて骨を断つ」ような、愚直な戦い方を貫いた末に勝利を手にするサッカーを、自身の真骨頂としていたのではなかったのか。

プランBも用意されておらず
 韓国戦は「前へ、裏へ」という得意とする戦法を封じられると、プランBとでも呼ぶべき戦い方は残念ながら用意されていなかった。なすすべなくベンチに座ったままの姿は、試合途中から白旗を上げているに等しかった。存在意義が問われる敗戦、といっても決して過言ではなかった。

 最新のFIFAランキングで59位の韓国は、55位の日本よりも下位にランクされる。韓国が格上となるなら、日本よりもランキングがはるかに上で、来年のワールドカップ・ロシア大会での対戦が決まっているコロンビア、セネガルポーランド各代表はどうなるというのか。

「この大会を戦った日本はA代表ではなかった。B代表なのか、C代表なのかはわからないが、年齢にかかわらずいいプレーを続けている中村憲剛を入れることもできたが、けが人もたくさんいるなか、彼を除けばいま呼べるベストメンバーだったと思う」

 ハリルホジッチ監督は会見でこんな言葉も紡いだ。自らセレクトした23人の選手に対して、あまりにもリスペクトを欠いているのではないか。唐突に名前を出された、37歳のベテラン・中村憲剛フロンターレ)に対しても然り。見苦しい限りの言い訳にしか聞こえない。

 無為無策で試合途中から白旗をあげたベンチをいい意味で無視して、自分たちの意思で試合を進める気概も、残念ながらピッチから伝わってこなかった。元日本代表の司令塔で、テレビの解説を務めたラモス瑠偉氏は「久々に魂が感じられない試合だった」と韓国戦を総括した。

 魂が感じられない、という厳しい言葉はハリルホジッチ監督にも、そして日の丸を背負った選手たちにも問われる。現役時代に「試合が始まればオレたちのもの」と豪語し、自分たちの存在意義と感性こそがすべてとばかりに、自信と誇りを抱きながらプレーしたのがラモス氏だった。

日本は最後までベンチの呪縛から解放されず

公式戦においては、選手交代は3人まで。いざキックオフの笛が鳴り響き、想定した展開とは異なる光景が目の前に広がったとしても、選ばれた11人の臨機応変な判断でプレーしなければ道は開けない。いい意味での自由奔放さが、サッカーというスポーツの最大の魅力のはずだ。

 しかし、韓国と戦った日本は最後までベンチの呪縛から解放されなかった。早々にリードを奪ったのであればあえてボールを保持し、韓国を誘き出す戦い方を選択することもできた。ハリルホジッチ監督は怒るかもしれないが、勝った者がすべてを肯定する世界であることを忘れてはいけない。

 特定の選手に責任を帰結させるつもりはない。それでも、頭の片隅では自由に戦おうと思いながら、最後の決断をくだせなかった選手たちのナイーブな本音は、左サイドバックとしてフル出場した車屋紳太郎フロンターレ)の、自らを含めたチーム全体を責めた言葉に凝縮されていると言っていい。

「監督の言うことに従うのは大事だけど、自分たちで場面、場面に合わせて、ボールを保持するところは保持して、という判断も大事だった。僕としてはボールを保持できたと思っているし、そこは選手たちの勇気の部分だと思う。相手を怖がってボールを蹴ると、五分五分のボールになってしまうので」

 国内組にとって、ロシアの地に臨むメンバーに生き残るための最後のオーディションと位置づけられた今大会。GK中村航輔レイソル)や伊東、小林らをはじめ、北朝鮮、中国に連勝してポイントを積み重ねた選手たちの存在もすべて開幕前の段階に戻ったと言ってもいい。

 終わってみれば、常日頃から厳しい環境でプレーしている海外組の評価が相対的に上がったことだけが収穫ではあまりにも寂しい。それを導いたのが、保身を強調したとも映る指揮官と、勇気に欠けたピッチから放たれる“熱さ”が足りなかったのならば、なおさら後味の悪さだけが残る。

 

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