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ユース世代でFC東京U-18が快挙! 佐藤一樹監督、驚異のチーム管理術。

ユース年代最高峰のリーグ戦である「高円宮杯プレミアリーグ」。今年のJリーグと似た光景が、東京ガス武蔵野苑多目的グラウンドで起こった。

 最終節を迎える時点で、首位は清水エスパルスユース。2位はFC東京U-18、3位は青森山田だった。

 FC東京U-18青森山田は同じ勝ち点、同じ得失点差。清水ユースとの勝ち点差は僅かに1だった。

 最終戦は清水ユースが柏レイソルU-18と対戦し、FC東京U-18青森山田は直接対決に臨んだ。清水ユースが引き分け以下の場合、この直接対決に勝った方が逆転優勝となる。その状況で、ドラマを起こしたのがFC東京U-18だった。

 ホームで迎えた青森山田との最終戦。「選手や僕自身も清水の結果は耳に入れないようにした」と佐藤一樹監督が語ったように、余計な情報を選手たちの耳に入れることなく、目の前の勝負に徹することにした。

劇的な展開で、ついに悲願の優勝へ!

 FC東京U-18は30分にMF品田愛斗のゴールで先制すると、57分にはMF横山塁が追加点を奪い、2点を先行。その後、青森山田に1点を返されるが、77分には交代出場のMF久保建英が鮮やかなドリブルシュートを決めて、3-1。85分にもう1点返されはしたが、結局この久保のゴールが決勝弾となった。

 タイムアップから数秒後、ベンチに柏U-18が清水ユースに2-1で勝利した情報が入り、逆転優勝が決まった。昨年は最終戦青森山田との直接対決に敗れ、優勝を逃していただけに、喜びはひとしおだった。

「1年間で3年分考えましたよ(笑)」

 プレミアリーグイースト発足後、初優勝を果たしたチームの躍動の裏には、佐藤監督の緻密なマネジメントがあった。

 FC東京U-18はもともとユース年代では強豪であり、これまでにも多くの結果を残してはいた。そんな歴史の中で、昨年チームに大きな変化が生まれた。

 U-23チームが新たに発足し、正式にJ3のリーグ戦への参加が決まったのだ。メンバー登録上、U-23の試合には、多くのU-18チームの選手が呼ばれるようになった。必然、ユース年代は人の出入りが極端に激しくなっていた。

「1年間で3年分考えましたよ(笑)」

 優勝を手にした佐藤監督は安堵の表情を浮かべながらも、2年間の苦悩を語ってくれた。

J3効果でU-18が単純に強くなるわけではない!?

「簡単ではないところが沢山ありました。J3で経験を積む選手がいるということは、その代わりにU-18で違う選手が出番を掴むことになります。その選手が期待以上の活躍をしてくれる場合もあれば、『まだちょっと早いかな』と思う場合もあります。そこが難しいところですね。

 4月にプレミアリーグがスタートしてからは、当初は選手と戦術にばらつきがある中で戦わなければいかず、非常に難しかった。選手の組み合わせ、戦い方を変えたりと、いろいろ試行錯誤しながら勝ち点を拾っていったのですが……他のチームはある程度メンバーを固定した中でどんどん仕上がっていくので、その中でリーグを戦うのはしんどかったですね」

 U-23チームはFC東京以外にもC大阪G大阪の3チームが参加。若手の実戦経験の場を多く与えている。その中でもFC東京は多くのU-18所属選手がJ3に参加し、プロレベルの経験を積むことができたという。

 端から見ると「J3で経験を積めた分、選手の能力が上がったから強くなった」と“J3効果”を讃える声も上がりそうだが、実際はそんな単純なものではなかった。

「『俺はJ3に出ている』という驕り」は論外。

 U-18チームの現場では、これまで以上にきめ細やかなチームマネジメントが求められることになった。

「選手個人のことを考えると……J3を戦うことで経験値が上がって、それをきっかけに伸びた選手も沢山いるので、J3効果は間違いなくあると言えます。でも、我々のハンドリング次第で、その成長が逆に転がっていく危険性もはらんでいるわけです。

 特に重要なのはU-18のチーム内で『俺はJ3に出ている』という驕りを選手に出させないこと。そこはきっちりと釘を刺していて、もしそうした素振りを少しでも見せる選手がいれば、ピッチに立つ資格は無いと厳しく伝えています。その基準がブレてしまうと、チームはたちまち無法地帯になってしまいますから」

 佐藤監督がチームマネジメントをする上で重要視したのが「絶対に崩さない戦術の大枠」と「徹底的な選手の観察」だった。

「まずベースとして、『これは絶対にやってくれ』という大枠を作って、その中で『なぜ君はこのポジションなのか』、『なぜベンチスタートなのか』などを理論的に説明できるようにしています。『相手がこういう布陣だから、このマッチアップだと君の特性を出せる』とか、『相手の縦への速さに対して、君の高さで勝負したい』とか、『近いポジションでコンビを組むのがあの選手だから、君との相性がいい』など、詳細に選手を観察して、しっかりと起用理由を伝えていかないといけません」

「(選手の)オフの部分までも知っておかないと」

 さらに入れ替わりの激しいチームながら、ある柔軟性も持たせるように考えていた。

「絶対にブレない“大枠”があれば、与えられたポジションで自分の個性や相性を存分に発揮させることができ、チームとしての戦術的な柔軟性を生むこともできてくる。組み合わせ、配置など、選手一人ひとりを隅々まで観察して、『この選手はこういう性格だから、この状況で使ったら力を発揮する』という感じで、いつもそのことを考えていました」

 選手の一挙手一投足を見逃さない――それは固定されたメンバーだけでなく、U-18チームでプレーしているすべての選手が対象となる。当然、J3で戦う選手達のプレーやコンディション、出場時間などのチェックも欠かせない。

「(選手の)オフの部分までも知っておかないといけない。そこまで知っておかないとこれだけ多くの選手を回せないんです。普段からしっかりとコミュニケーションをとったり、観察しておかないといけないんです」

U-18は、学校の入学・卒業でチームが激変してしまう。

 ユース世代の宿命は、それぞれの選手たちに学校での入学・卒業があり、一気にメンバーが変わってしまうこと。この条件は、どのチームも同条件だが、FC東京U-18にとって今年想定外だったのは、トップチームのケガ人が続出したことにより、より多くの選手がJ3の舞台に“引き上げられてしまった”ことだ。

 この苦難のチームマネジメントについて、いくつか具体的な事例を挙げる。

 そもそも、今年のプレミアイーストは不安のスタートだった。開幕戦で清水エスパルスユースを相手に後半アディショナルタイムの失点で黒星発進となった。

 続く第2節、浦和レッズユース戦は、同じ日にJ3C大阪U-23戦(アウェー)が行われていた。そのチームにはDF坂口祥尉、MF久保建英、平川怜、岡庭愁人、小林幹、FW原大智の6人のU-18選手が招集されており、前節の清水ユース戦から実にスタメンを6人も入れ替えての戦いを強いられたのだ。

 当然ながら、この試合、チームは大苦戦を強いられた。

「この試合で勝ち点を拾えたからこそ、今がある」

 前半に先制を許し、後半途中までリードを奪われた。しかし、70分にFKから横山のヘッドで同点に追いつくと、後半アディショナルタイムには途中出場のMF杉山伶央がヘッドで決めて、劇的な逆転勝利を飾った。殊勲の横山、杉山は清水ユース戦でスタメンではなく、杉山はベンチ入りもしていない選手だった。

「この試合で勝ち点を拾えたからこそ、今があると言ってもいいと思います。あそこで変な負け方をして、連敗をしてしまっていたら、ちょっと危険な状況もあったと思います。

 リーグ序盤戦は経験がまだ積めていない状態で、なおかつ成長しきれていない。その状態で高いレベルの試合に入るから、当然選手達も困惑する。でもそれを勝ちに持っていった。しかもギリギリのアディショナルタイムで……本当に紙一重の中で勝負をしていたと言えます」

東京で夜まで試合をして、翌朝9時に群馬で試合!?

 ほかにも、7月22日のJ3第18節のギラヴァンツ北九州戦(ホーム戦)のようなケースもあった。

 彼らが戦っているのはプレミアリーグだけではない、夏の日本クラブユース選手権、秋から冬に掛けてのJユースカップと、気の抜けない試合が続く。そしてこの北九州戦の翌日、7月23日にU-18チームは日本クラブユース選手権初戦・町田ゼルビアユース戦を控えていた。

 味の素フィールド西が丘で17時から行われた北九州戦では、U-23チームのスタメンにはU-18の選手(DF岡庭、坂口、草住晃之介、長谷川光基、MF久保、品田、小林幹、FW原)が8人も名を連ねていた。ベンチ入りも4人中2人がU-18の選手(GK高瀬和楠、MF平川)と、実に10人の選手が参加していたわけだ。

 その時、佐藤監督と他の選手たちは群馬県にいた。

 そのため、東京で北九州戦に出場していたメンバーは、試合が終わるとそのまま車で群馬に直行し、チームに合流した。

東京を出たのが、20時辺りでおそらく合流は22時辺りだったろう。しかも翌日の試合は朝の9時キックオフ……。

 かなり厳しい状況だったはずだが、結果は4-2の勝利。苦しい状況下にもかかわらず、初戦を好発進したチームは、そのまま頂点に登り詰めた。

 すべては緻密なマネジメントをやり続けた佐藤監督を筆頭にしたスタッフ陣と、それに真摯に応え、それぞれが成長しようとした選手達の強固な信頼関係が生み出した結果であった。

「しんどかったけど、選手達のおかげでここまできた」

 今季のU-18チームにとって最後の戦いとなる、12月17日(日)13時キックオフの高円宮杯チャンピオンシップ(埼玉スタジアム)。

 イーストの王者として臨むFC東京U-18は、ウエスト王者のヴィッセル神戸U-18埼玉スタジアムで戦い、勝てば「ユース年代真の日本一」の称号を手に入れることになる。

「しんどかったけど、選手達のおかげでここまできた。一番凄いのは選手達ですよ。大人がいくら緻密なマネジメントしても、選手達がちゃんと応えてくれて、それ以上のパフォーマンスを見せてくれないと優勝というのは具現化できないから」(佐藤監督)

「選手と会話をすることは好きだから(笑)」

「僕ら指導側は、臨機応変さが大事なんだと思います。例えばトップチームのある選手が怪我をすると、U-23の選手がトップに上がる。その影響で、さらにU-18の選手が試合前日いきなりU-23に帯同することになったりするわけです。

 そうなると……U-18チームが試合のために前日に用意しておいたセットプレーが急にできなくなる。

 こうなると、正直スタッフルームではスタッフ全員で『うわーー!』って頭を抱えることになるわけだけど、選手達の前ではケロっとして、『全く問題ないよ。できるでしょ?』と動じていない態度をしなければならない。もしかしたら選手達に見透かされているかもしれませんが(笑)」

 青森山田戦後、じっくり話をした後の別れ際、最後に佐藤監督は笑顔でこう言った。

「あ、僕自身そういう細かい作業が嫌いじゃないと言うか、選手と会話をすることは好きだから(笑)」

 FC東京U-18が躍動する裏側には、佐藤一樹という男のどこまでも深い選手への愛情が存在するのだ。

 

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